*論文が公開されました(2021年6月16日)*

生活保護を利用している成人の新規歯科受診には社会背景等により格差がある可能性を示唆した研究論文が、International Journal for Equity in Health誌で公開されました。こちらは、過去の学会で発表した研究(過去の記事はこちら)が査読付き国際雑誌に受理され、公開されたものです。

生活保護利用者に必要な健康支援を推進する、被保護者健康管理支援事業が開始されています。歯の健康支援は被保護者健康管理支援事業の必須事業には含まれていませんが、糖尿病をはじめとするさまざまな健康状態に密接な関りがあることが知られています。そのため、適切な予防・治療へのアプローチが重要となります。

まず、本研究データの解釈としては、「歯科受診があること = 歯の治療や予防に関する行動があること」として必要な受診ができていると考えられます。一方、「歯科受診なし = 歯の病気なし」ではありません。もちろん、病気がない人もいますが、予防的な受診が重要な歯科の特徴を踏まえれば、「歯科受診なし = 適切な受診につながっていない」と考えられます。これらの人々を私たちは適切な受診へとつなげていくような支援策を検討することが重要です。

2016年1月時点で生活保護を利用している成人から、追跡開始当初3か月で歯科受診があった人を歯科受診につながることができている人とみなして除外しました。残りの4497人の利用者(歯科に定期的に受診していない人)を9か月間追跡したところ、839人(18.7%)が追跡期間中に新たに歯科を受診しました。分析の結果、女性では男性よりも1.22倍、就労者では不就労者よりも1.15倍、外国籍世帯の利用者では日本国籍の利用者よりも1.53倍、精神障害の認定がある者では障害認定のない者よりも1.30倍、歯科受診につながっていることがわかりました(図)。

これらの結果の背景には、以下のような理由が考えられます。

1)審美的な観点から、人との交流があるような女性や就労者などでは適切な歯科受診につながっており、男性や不就労の利用者が適切に受診できていない可能性があります。
2)外国籍世帯の利用者の受診には文化的な歯科受診行動の違いがあるかもしれません。
3)精神障害の認定を持つ方では不安などのさまざまな心理的な背景だけでなく、精神科で使用される薬が唾液等を減らすことで歯科疾患を引き起こしやすくなっている可能性があるかもしれません。

これらの関係性の検証のためには、より詳細な生活状況や環境要因を踏まえたデータ分析が必要となり、今後明らかにしていくべき課題です。

歯科への定期的な受診は歯だけでなく身体的、精神的な健康につながります。生活保護の利用者が適切な歯科受診につながっているのかどうかを把握し支援することは、歯だけでないその人の健康で文化的な、豊かな暮らしに役立つ可能性があります。生活保護利用者の支援のため、医療と福祉の双方の観点から、今後も研究に励んでまいります。ぜひみなさまの現場でのお声をお聞かせください。

西岡大輔(にしおか だいすけ)

<書誌情報>
Nishioka D, Ueno K, Kino S, Aida J, Kondo N. “Sociodemographic inequities in dental care utilisation among governmental welfare recipients in Japan: a retrospective cohort study.” Int J Equity Health20, 141 (2021)