「社会的処方」は医療と福祉の架け橋となるか

西岡大輔.「社会的処方」は医療と福祉の架け橋となるか.社会福祉研究.2022. 145;2-9.

鉄道弘済会「社会福祉研究」に論文が公開されました。社会福祉関係の雑誌に論文を書くことができて、新しい世界を経験することができました。

近年国内でも注目されている「社会的処方」という取り組みが、医療と福祉の架け橋となるかを、医療、公衆衛生、社会福祉などを経験し学んだ私自身が現在考えていることをまとめました。
(大学院時代の尊敬する指導教員の一人に、きれいにまとめていると評価をいただき、光栄でした。)

まず、「社会的処方」とは英国で実践されているSocial Prescribingの名称を和訳したものです。

「社会的処方」は、「薬を処方することで、患者さんの問題を解決するのではなく『地域とのつながり』を処方することで、問題を解決するというもの」1)や、「かかりつけ医等が患者の社会生活面の課題にも目を向け、地域社会における様々な支援へとつなげる取組」2)等と紹介されています。
1)西智弘編著,社会的処方ー孤立という病を地域のつながりで治す方法ー,学芸出版社,2020年
2)内閣府,経済財政運営と改革の基本方針2020ー危機の克服,そして新しい未来へー,骨太方針2020,2020 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/2020_basicpolicies_ja.pdf(2022年9月9日閲覧)

近年国内でも、「社会的処方」の概念に対する懸念や期待が議論されるようになってきました。

医学モデルに慣れ親しんだ医療従事者は、生活モデルによる援助に精通していません。そのため、個別性を重視しない不適切な支援に繋がることが懸念されています。また、「処方」という用語は権威的な医師主導を含意するもので、人々の生活上の課題を医療という手段で解決しようとする医療化につながる可能性も指摘されています。一方、医療が福祉を活用する観点における期待、そして福祉が医療を活用する立場になるという期待もされています。医療機関は福祉にとってアウトリーチの場所になり得ます。「社会的処方」の取り組みの進展により医療機関が福祉のインフラの一つとなれば、医療へのアクセスをきっかけに、福祉が本来アプローチしたかった援助対象者の権利を守る活動につながる可能性があります。

「社会的処方」が医療と福祉の架け橋になるには、さまざまな障壁があります。その障壁をクリアするために、医療はその権威性を認識しする必要があります。医学に立脚した価値観で人々を支援していることを自己覚知する必要があります。そして医療は健康を扱う専門集団ですが、その他の社会資源と同様に人々の健康な暮らしをまもる地域福祉の1つの資源です。地域福祉のひとつの資源である医療がその他の地域のさまざまな組織や人々と顔の見える関係を構築し、深めていくことが重要です。そして福祉は、ソーシャルワークに包含されうる「社会的処方」という概念がなぜ提案されているかに関して考察し、援助対象者の声を聴き、社会福祉の価値や課題、その在り方に関して発信し、医療と共に議論することが重要です。

もし論文全体をお読みになられたい方がいらっしゃいましたら、お気軽にお声かけください☻

西岡 大輔(にしおか だいすけ)