研究にトライ!連載 第1回:研究するとは?

西岡大輔.研究にトライ! 医療介護の現場の疑問を研究して患者のケアに役立てよう(第1回) 研究するために気をつけたいこと.民医連医療.2023;(604): 54-5.  から内容を抜粋してお届けします。

研究は誰のため?

まず、研究は何のために実施されるのでしょうか。医療や介護の現場で実施される研究は、目の前の患者のために実施されます。目の前の患者のことをよく知り、目の前の患者のために行われる医療や介護の実践をよりよいものにするためです。

目の前の患者のために研究が役立つまでのプロセス

まずは医療・介護従事者の日常にあふれる問題意識や疑問に気づくことです。それらの問題意識や疑問のなかから、まだ十分には解明されていない研究疑問を生成することから始まります。そして研究疑問を解決しうる実現可能な研究計画を立案し、計画に沿って必要なデータを収集します。そのデータを科学的に分析し、得られた分析結果を考察し、学術的な形式で公表します。その結果、その研究疑問から生まれた、疑問を解決しうる資料が提供され、ようやく目の前の患者に還元されていくのです。

研究を始めるにあたって気をつけなければならないこと

研究をする上でとても大切な心構えがあります。それは、研究を実施する自分自身が社会や医療、健康や疾病、研究対象となる人などに対してどのような価値観を有しているのかを自己覚知することです。

自身の価値観を認識しないまま研究をすすめると、真実とは異なる調査データを誤って収集し、一部の好ましい結果のみを抽出することで研究成果に歪んだ結果(バイアス)が生じます。私たちには、私たちの価値観に照らし合わせて”正しい”結果を得たい気持ちが潜在的にあります。そのため、”正しい”と確信していることを裏付ける証拠だけを見出してしまいます(確証バイアスと心理学で呼ばれます)。これらのバイアスから、研究者は”無自覚に”歪んだ結論を導いてしまうことがあるのです。

では、私たちが自身の価値観を自覚したうえで、次に考えるべきことは何でしょうか。
それは、「どうしてその研究をするのか?」という理由を明らかにすることです。

どうしてその研究をするの?

なぜ私たちには研究が必要なのでしょうか。その裏付けを、関連する先行文献から論理的に根拠立てていきます。最初に、研究の重要性すでに明らかになっていることをまとめてみましょう。その知見が、目の前の患者さんに還元できる場合には、わざわざ研究する必要はないかもしれません。すべての研究は患者への侵襲・介入となりうるためです。先行文献を調べて、目の前の患者さんにその知見が適応できない、既存研究が解決できていない課題がある場合に、まだ明らかになっていないことをリストアップしましょう。そこに研究で明らかにする必要がある”リサーチギャップ”が存在し、研究疑問となるのです。

研究疑問を解決するために、個人情報の保護や、研究の結果患者に生じうる不利益に関して倫理的な側面を中心に十分議論し、研究を開始しましょう。必要に応じて各医療機関の倫理審査を受け求められます。所属する医療機関に倫理審査を受け付けている委員会がない場合には、法人内もしくは近隣の学術機関との連携が必要になります。ぜひ確認してみてください。

第2回は”研究疑問”の作り方をご紹介します!