私が2022年より共同研究の契約を結んでいる大阪府豊中市との研究成果が少しずつですが、形になってきました。今回ご紹介するのは、福祉事務所との共同研究の成果です。
西岡大輔, 武本翔子. 生活保護受給者への架電による健診の受診勧奨と受診行動との関連:豊中市の2年間の取り組み. 日本公衆衛生雑誌. 2024. (早期公開)
健康は誰にとっても大切なものですが、生活に困難を抱えている人々にとっては、健康を維持するのが非常に難しいことがあります。豊中市では、生活保護の利用者(被保護者)の健康をサポートするために、電話で健診受診を勧める取り組みを行いました。今回はその結果についてご紹介します。
どのような取り組みをしたのか
豊中市では、40歳から60歳までの被保護者の方々を対象に、電話で健診を受けるよう促す活動を実施しました。健康診断は、病気の早期発見や健康管理にとって重要ですが、さまざまな理由から受診が難しい人も多いのが現状です。そこで、電話で直接受診を勧めることで、少しでも健診の受診率を向上させることを目指しました。果たして、どの程度の効果があったのでしょうか。
取り組みの結果
電話での受診勧奨の結果、50代、就労なし、過去に健診を受けたことがない、定期的に医療機関を受診していないといった特定のグループの方々に対しては、受診率が高くなることがわかりました。
- 2021年度: 電話で受診を勧めたグループでは受診率が10.2%に達しましたが、勧奨ができなかったグループでは4.1%と低い結果でした。
- 2022年度: 電話による受診勧奨がすべての被保護者に有効であったわけではありませんが、年度末に近づくほど受診率が高まる傾向も見られました。この傾向から、「期限が近いと行動しやすくなる」という心理が影響している可能性も示唆されます。
わかったこと
今回の取り組みから、「電話による勧奨がすべての被保護者に対して効果的ではない」ということが明らかになりました。しかし、「50代」「就労なし」「過去に健診未受診」「定期受診先なし」といった特定の属性を持つ方々に焦点を当て、実施のタイミングを工夫すれば、より効果的なアプローチが可能であることもわかりました。
今後の展望
本研究による成果は、他の自治体・地域でも応用できる可能性があります。やみくもに電話して受診を促すのではなく、ターゲットを絞った介入が大切です。今後は、健診を受けた被保護者の健康状態の追跡や、電話による勧奨に反応しにくかった方々への新たなサポート策を検討することが求められます。
まとめ
健康サポートのアプローチは一つではなく、さまざまな試行錯誤が必要です。今回の豊中市の取り組みから、「どのようにすればより多くの被保護者が健康診断を受けやすくなるか」という課題に対する道筋が少しずつ見えてきました。今後も、健康支援の輪が広がり、多くの人が安心して健康を維持できるように取り組んでいくことが期待されます。
自治体との対話を重ね、行政施策に資する成果を生み出しながら、健康に不利な立場にいる人々の健康な暮らしを支えていくことを目指して研究しています。地道に少しずつの歩みですが、活動に関心を寄せてくださったら嬉しいです😊
西岡 大輔 (にしおか だいすけ)