第12回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会がオンラインで開催されました。
今年は、2つの演題の発表(研究)と1つのセッションの運営・座長(教育講演)を務めました。
本日はそのうちの1つをご紹介します。
大阪医科薬科大学の救急科の先生と一緒に進めた臨床研究で、今まで実践してきた社会と健康に関する研究とは少し種類の異なるものです。
用いた手法は私が大学院の博士論文で応用した「回帰不連続デザイン」という経済学の手法で、明確な基準で変化するものをあたかもランダムに分けたように実験的な分析を行うものです。(博士論文の内容については、査読付き国際雑誌に掲載され次第ご紹介します)
本演題の発表には多くの先生方に質問やコメントを寄せていただきました。
また、大学院時代に熱心に学んだ経済学の知識を生かすことができたことを嬉しく思います。
今後も各専門の先生の臨床上の疑問やアイディアから研究をデザインし、解析をお手伝いしつつ、臨床的な観点に関してご指導をいただきながら研究を進めてまいります。論文化されましたら改めて内容をご紹介します!
西岡大輔(にしおか だいすけ)
**以下、演題概要(本研究は学術雑誌の査読を受けており、査読による修正を経て結果に変更が生じる可能性があります。)**
表題
アルコール/クロルヘキシジン消毒への統一は血液培養汚染を減らすか:不連続回帰分析による準実験研究
Can alcohol/chlorhexidine disinfection reduce blood culture contaminations? A quasi-experimental study using regression discontinuity design
抄録
【背景】菌血症は重篤な転帰となるため適切な診断が重要である。血液培養の精度は採取手技に依存するが、汚染検体は患者に対する診療の質の低下、耐性菌の発生、医療費の増加などの悪影響をもたらす。しかし、血液培養の採取方法には医師や施設によるばらつきがあり、その血液培養汚染への影響に関して統一された見解はない。
【目的】血液培養採取時の消毒薬の統一が血液培養汚染に与える効果を検証すること。
【研究デザイン】横断研究。
【対象、セッティング】対象は2018年8月から2020年9月までに大阪医科大学付属病院救急医療部で採取された血液培養検体すべてである。血液培養の採取手技は各医師の裁量に委ねられており、多くはポビドンヨードを用いていた(2018年8月~2019年8月では67.0%)。2019年9月より、アルコール/クロルヘキシジンへと統一されたことに注目した。
【主たるアウトカム指標】各観察月の血液培養汚染割合(汚染と判定された検体/総検体数)を用いた。血液培養汚染の有無は感染制御部門の判定に準じた。
【主たる要因】【統計解析方法】観察月を説明変数として用い、消毒方法を統一した2019年9月を閾値とした不連続回帰分析を実施した。本研究は、大阪医科大学研究倫理委員会による承認を得た。
【結果】1097例の患者から2141検体を採取した。そのうち164検体(7.7%)が汚染と判定された。他の影響を与える要因(採取部位など)は閾値前後に変化はなかった。不連続回帰分析では血液培養汚染率は閾値前後で9.6% (95%信頼区間5.0-14.2)、有意に低下した。
【結論】アルコール/クロルヘキシジンへの消毒方法の統一は血液培養汚染を有意に減少させた。消毒方法の周知による効果の可能性も考えられた。
キーワード
診療の質改善、血液培養、不連続回帰デザイン