京都民医連あすかい病院のソーシャルワーカーの方の疑問から始まった研究が、緩和ケアに関する国際学術誌に受理、公開されました。この研究は、過去の学会発表エントリーで紹介した研究の、査読対応による修正版です。
医療費のみを保障する無料低額診療事業の利用者では、社会福祉制度の非利用者と比べて緩和ケアの受療期間が短い傾向にあることが示されました。一方、生活費および医療介護の費用が保障される生活保護利用者では、非利用者と比べてその差が小さいことも示されました。
これらの結果は、特に経済的な困難を抱える人々にとって、尊厳のある人生の終末期には、医療費への経済的な支援だけでは不十分で、その他の費用やサービスが必要である可能性を示唆するものです。
私たちが働く医療現場では、困難を抱えているものの、それを他者に発することが難しい人・患者に遭遇します。そのような人々の理解に努め、つながった細い糸を大切に、その小さな声を代弁し、社会に届けるアクションをすることが大切です。
本研究はソーシャルワークの現場で出た疑問がきっかけですが、このように数字として表現しアクションすることも可能だということを私自身が学ぶこともできた研究でした。貴重なチャンスをいただき、ありがとうございました。
現場の声は、社会変革に資する研究にきっとつながります。今後も現場の方々からの声をたくさんお聞かせください!研究の詳細は以下の要約および原典をご確認ください。
<論文の要約>
背景:医療費減免制度の利用は、経済的に困窮するがん患者の社会的苦痛を緩和する可能性があるが、制度利用者における緩和ケアの受療実態に関するデータは乏しい。本研究では、低所得者のための社会福祉制度(生活保護:生活費および医療・介護費の扶助;無料低額診療事業:実施医療機関の医療費のみ減免)の利用によりがん患者の緩和ケアの受療実態が異なるかを検証した。
方法:研究デザインは回顧的コホート研究で、2021年度に京都民医連あすかい病院の緩和ケア科を初診した全患者を1年間追跡した。目的変数は緩和ケアの受療期間で、患者ごとに初診日から死亡日までの日数を算出した。説明変数は各医療費減免制度の利用有無を用いた。性、年齢、世帯構成、初診時のがんのステージを調整したCox比例ハザードモデルによる多変量解析を実施した。
結果:220人の患者が対象となった。制度利用者は25人(生活保護17人、無料低額診療事業8人)であった。追跡期間中の死亡は178人に観察され、84人は初診後30日以内に死亡していた。非利用者と比較して、無料低額診療事業群では生存期間が短い傾向があった(調整ハザード比2.05、95%信頼区間0.80-5.22)。生活保護群では差はなかった(調整ハザード比 1.19、95%信頼区間 0.49-2.87)。制度利用群では在宅死はなかった。
結論:医療費のみを対象とした無料低額診療事業は、低所得者の尊厳ある終末期ケアを十分に支援できない可能性がある。これらの知見に影響を与えうる様々な生物心理社会的要因をさらに考慮して、本研究の頑健性を検証するための多施設前向き研究が必要である。
西岡 大輔(にしおか だいすけ)