国内の複数の自治体の福祉事務所からデータをお預かりして分析し、その成果を論文や講演で発信しています。特に、誰に健康の不利が生じやすいのか?どのような支援が健康維持に効果的なのか?を分析しています。ここから生み出されたいくつかのエビデンスは、政策資料となるだけでなく、司法の現場でも活用されるなど、社会に求められている研究です。研究の中身を少し紹介します。
生活保護利用者の健康の実態
生活に困窮している人は、お金の困難以外にも複合的な困難を抱えており、不利な健康状態におかれています(→「生活困窮・貧困と健康の関係」へのリンク)。
生活保護利用者にも、複合的な困難に基づく健康上の不利が生じています。病気をきっかけに生活保護の利用に至る人もいます。実際に生活保護利用者では、公的保険加入者と比較して、10歳若くから、糖尿病を抱えていることがデータから示されています(Sengoku, 2021)。
その他、抑うつ状態や自殺関連行動といった精神面での負荷も利用者は抱えています(Kino, 2021; 2022)。日常診療や支援の現場で、利用者に対する健康支援の難しさに直面したことがある人も多いでしょう。では、どのような利用者の健康がまもられにくいのでしょうか?近年、少しずつではありますが、生活保護利用者の健康に関する研究が蓄積され、エビデンスに基づいた健康支援が実施できるようになってきています。その例をみてみましょう。
糖尿病の新規診断や頻繁な受診行動と関連する世帯構成・就労状況
複数の自治体からお預かりした福祉事務所のデータを活用して分析を行ったところ、糖尿病に罹患している人が多い生活保護利用者の中でも、糖尿病と新たに診断されやすい利用者の背景には、ひとり暮らしや就労していないことが関連していました(Nishioka, et al. 2021a)。頻繁な受診行動も、一人暮らしの利用者と就労していない利用者で発生しやすいこともわかりました(Nishioka, et al. 2020)。ひとり暮らしの利用者には家庭というコミュニティがありません。また、就労していない人では職場というコミュニティがありません。このようなコミュニティからの多重の排除が、利用者の健康や健康行動を損ねている可能性があります。
生活保護の研究を入口にした、誰もが健康になれるまちづくりへ
自治体の福祉事務所のデータを活用すれば、誰の健康が損なわれやすいのか、どのような健康支援を行うべきなのかの大切なヒントを得ることができます。さらに、福祉事務所以外のデータと組み合わせて分析することで、自治体の施策に示唆を与える発見ができることもわかってきました。
生活保護制度の利用者研究をともに進め、社会に求められているエビデンスを作り、一緒に健康なまちづくりを進める仲間を歓迎しています。研究者や保健医療福祉従事者、行政の担当者の方々で、研究に関心をお寄せいただける方は、ぜひご連絡ください。
ここで紹介した研究内容はごく一部です。過去の研究内容や取り組みもぜひご覧いただけましたら幸いです。