「日本医事新報」掲載記事を紹介します
日本医事新報 プライマリ・ケアの理論と実践に、「多次元的な貧困と健康支援」について執筆しました。
貧困は、経済的な困窮にとどまりません。生活に困窮する人は、食料・衣服等健康な生活の為に必要なものが不足するだけでなく、対人交流や社会活動への参加も困難となり、社会関係から排除されます。
さらに周囲からの(無意識的な)言葉によって、自己評価を下げるようなスティグマを負ってしまうと、様々な権利を行使する力や自らの意見を発する力がないパワーレス・ボイスレスの状態に陥り、ますます社会関係から排除されてしまいます。
そのような動的かつ多次元的な貧困の状態にある困窮者に対する経済的な生活保障となりうる生活保護制度は、利用者の健康を保障できるのでしょうか。
私たちが進めてきた研究をもとに解説を加えました。生活保護の利用者の健康状態や健康行動に関する研究では、一人暮らしや就労していない利用者は、そうではない利用者と比べて、頻回受診を経験しやすく、また新たに糖尿病の診断に至りやすい傾向がみられました。(Nishioka D, et al. BMJ Open. 2020; Nishioka D, et al. J Diabetes Investig. 2021)
一人暮らしや就労していない利用者には、家庭や職場というコミュニティがありません。コミュニティからの排除という貧困の多次元的な概念が影響している可能性が考えられました。
では、そのような多面的な困難を抱える利用者に、私たち医療に関わる専門職は何ができるでしょうか。
定義上の頻回受診は、約2%の利用者にのみ観察されました。利用者が自己負担なく医療サービスを享受するための手続きは、スティグマなどの観点からハードルが高く、逆に必要な受診を控えてしまうケースもあることが報告されています。
利用者による医療機関への頻回な受診行動は、コミュニティから排除されパワーレスやボイスレスの状態にある人の援助希求行動なのかもしれません。医療従事者にはそのような困難を抱えている利用者をさらに非難するような無意識の差別・偏見が内在することも知られています。(FitzGerald C, et al. BMC Med Ethics. 2017)
プライマリ・ケアに関わる方はぜひ、利用者への診療姿勢を振り返り、理解に努めて頂ければ幸いです。
西岡 大輔(にしおか だいすけ)