書籍出版:「実践 SDH診療」が発売されました

西岡が執筆に関わった、
「実践SDH診療 できることから始める健康の社会的決定要因への取り組み」
(監修:日本プライマリ・ケア連合学会、編著:近藤尚己 西村真紀. 中外医学社. 2023)
が発売されました。

「SDH(Social Determinants of Health)」は「社会的な健康規定要因・健康の社会的決定要因」などと呼ばれ、健康に影響を及ぼす社会的な要因を指し、近年医療機関での対応が求められてきています。

たとえば本書では、医療従事者の方に向けて、SDHの考え方や臨床での対応のあり方のヒントを、貧困・生活困難、障害者、性的指向と性自認、LGBTQ、男性・女性、ホームレス状態、在住外国人、ライフコース・アプローチ、マルチモビディティとSDH、地域特性などに分類し、事例ごとに解説しています。

この記事では、西岡が執筆したコラムの内容を紹介します。

貧困・生活困窮の状態にある人は、食料や金銭等生活に必要な資源が不足している絶対的な貧困状態にあるだけなく、経済的、心理的な障壁から社会活動への参加が難しくなり、社会関係から”排除”されます。すると様々な場面で権利(パワー)の行使や自らの声(ボイス)を発することが困難な”パワーレス・ボイスレス”の状態に陥ります。そんな中、周囲からの(無意識的な)非難や軽蔑を受け”スティグマ”を負ってしまうと、自尊心が傷つけられ、更にパワーレス・ボイスレスの状態が強化されてしまいます。

医療現場に支援を求めてきた目の前の人は、様々な障壁や困難を乗り越えた人です。医療従事者にはその支援対象者の人生をジャッジする権限はありません。

支援対象者の言動に細心の注意をはらい、複眼的な視点で、傷に対する治療や指導を中心とするような医学モデルによる支援と、傷はありながらもできることに注目する社会モデルや生活モデルによる支援の双方を考えることが大切です。そのためには、ぜひさまざまな職種の支援者や住民のみなさんと顔の見える関係で協力しましょう。

他にも、「医療機関でできる生活困窮者への支援」と「診療現場でのSDHの評価と活用の実際」などについて執筆しました。生活保護利用者の健康状態や健康行動についての研究や、無料低額診療利用者の状況の研究結果についてもご報告しています。これまでも繰り返し述べてきましたが、医療機関で利用者に必要な経済的支援ができるだけでなく、利用者の社会的な背景によって異なりうるニーズを理解し、地域の中で様々な支援機関と連携し、多面的な支援につなげていくことが重要です。

生活保護や無料低額診療の利用者は、生活に困窮している人々と考えられていますが、すでに社会福祉制度にアクセスできている人と視点を変えて捉えることもできます。実際には、生活に困窮しており健康な生活を送ることが難しい状態にありながら、地域の支え合いや公的な支援につながっていない人々もいます。

そのような人でも医療機関を訪れることがあります。医療機関は、SDHへの支援が必要な患者を発見する支援の入り口にもなりえます。しかし、医療機関で患者の生活困窮状態やSDHを把握し支援することは容易ではありません。そのためSDHを把握するための妥当性のある問診項目の作成が進んでいたり、診療情報提供書といった文書にSDHに関する情報を記載することで情報共有を進める取り組みもみられています。本書ではそういった取り組みに関してもさまざま紹介しています。

日本だけでなく世界的に、医療機関が患者のSDHをスクリーニングして対応するためのプロジェクトを進めています。ぜひお手に取ってみていただき、ご感想をお寄せください。

西岡 大輔(にしおか だいすけ)