高齢被保護者における「自殺」を予防できるか?

「公的扶助研究 第269号」連載:「健康管理支援事業」を考える 掲載記事を紹介します。
保健事業の中でも極めて重要で、さまざまな対策がとられてきた「自殺」をテーマに、生活保護利用者の健康について記載しています。センシティブな内容なので、読むのが辛くなる人もいるかもしれません。その場合は途中でページを閉じてくださいね。

これまで高齢者における自殺のリスク因子となるものは、健康問題と経済的な困難が指摘されてきました。では生活保護制度により最低限の生活や医療へのアクセスが経済的に保障されている高齢者ではその影響を小さくできているのでしょうか。本稿では、そのような問いに答えようとした研究を紹介しています (Kino, et al. 2022)。

介護予防に取り組む66自治体が参加した、日本老年学的評価研究調査のデータを用いて、65歳以上の高齢者16,135人のデータを対象に分析を行いました。調査では「自殺念慮を抱いた経験の有無」と「自殺企図の経験の有無」を把握しました。その結果、利用者においては非利用者と比較して自殺念慮が約1.5倍、自殺企図が約1.9倍多くみられやすいことがわかりました。背景因子の考慮が十分でない可能性がありますが、生活保護制度は利用者の自殺リスクを十分には緩和できていないことが示唆されます。

西岡大輔.「健康管理支援事業」を考える (8) .季刊公的扶助研究. 2023;(269):27-30.より抜粋

利用者と非利用者とのみかけ上の差の要因をより詳しくみてみると、特に自殺念慮や自殺企図に影響をもたらしていると考えられたのは、身体的な健康よりも精神的な健康、つまりうつ症状の有無でした。統計解析の結果では、仮に利用者の精神的な健康を非利用者と同じ水準に整えることができれば、自殺に関わるリスクを大きく下げられる可能性が示唆されました。

非利用者と比較した場合に、利用者においてうつ症状を持ちやすいことは以前にも紹介しましたが、利用者の「つながり」や「参加」が好ましい影響をもたらす可能性があります。利用者の精神的な健康に関わる地域の専門職全体の関わりが利用者の自殺を予防する重要なポイントになるかもしれません。健康管理支援事業に関わるケースワーカーの方々が保健師や精神保健福祉士と、日々協働されているような取り組みが利用者の自殺に関連する行動の予防に繋がっている可能性があります。ぜひ今後もそのような取り組みを続けていただきたいです。

この研究では、生活保護の利用有無と自殺念慮や自殺企図などの経験とを同時に調査しているため、両者の因果関係は分かりません。今後は関連要因をさらに特定し、被保護者健康管理支援事業におけるエビデンスに基づく政策立案に反映させていく必要があります。ぜひ皆さんの経験やケース記録などから質的に学ぶ機会などをいただければ幸いです。

西岡 大輔(にしおか だいすけ)