「公的扶助研究 第270号」掲載記事を紹介します。
被保護者健康管理支援事業に関する「公的扶助研究」の連載:「『健康管理支援事業』を考える」も、今回をもって最終回となりました。読者のみなさま、本誌編集委員会、データを提供してくださった福祉事務所のみなさまによって支えていただいた連載でした。心より感謝申し上げます。
本号では最後のまとめとして、被保護者健康管理支援事業の可能性と課題の一部、その展望をお伝えしました。
利用者のおかれている状況は複雑です。複雑性の強い事例ほど、支援は部署や機関を超えた連携・協働を必要とします。組織間の顔の見える関係性が、組織連携を促進するひとつのエネルギーになることは日本の自治体を対象とした研究からも指摘されており、被保護者健康管理支援事業はそのような可能性をもった事業です。自治体や関係機関における組織づくりが、利用者そして住民全体の将来的な健康への投資に繋がっていきます。
しかし、被保護者健康管理支援事業はこのままの実施方法でいいのでしょうか?
たとえば、実施項目のひとつに頻回受診対策が挙げられています。頻回受診をすることが利用者の健康を維持できるのであれば、利用者への適正受診指導は福祉事務所の負担を増やす一方で、利用者の健康や医療費削減への効果が小さいことも想定されます。頻回受診と同様に福祉事務所による指導が求められている重複処方は、個人の健康や医療費削減への寄与が大きいことが推測されますが、個人要因・医療機関側要因・環境要因などが障壁となり、重複処方対策は十分実施されているとは言えません。また受療行動支援・指導には自立支援医療などの他法の状況が考慮されていないことがほとんどです。法律の根拠と担当する部署の違いがその検討の障壁となっており、医療扶助のレセプトデータから把握できる以上の潜在的な頻回受診や重複処方があるはずです。
以上のことを考えると、被保護者健康管理支援事業における受療行動支援の取り組みは、利用者や福祉事務所に対応を求めるだけでは不十分です。都道府県と市町村の関係性構築や、医師会や薬剤師会との「連携」を通じた支援体制の整備を進めるための国からのサポートが、被保護者健康管理支援事業の見直し・アップデートの際に必要となるでしょう。
最後に、多忙な中被保護者健康管理支援事業に携わるケースワーカーのみなさまに最もお伝えしたかったことがあります。私が伝えてきた話は、現場で働く皆さんにとって的はずれな指摘も多々あったと思います。しかし、ケースワーカーだけが唯一のつながり・資源である利用者は多く存在します。唯一のつながりであるケースワーカーが諦めたら、その利用者にとっての健康支援のチャンスはなくなってしまいます。利用者の社会生活に関わるケースワーク業務はすでに利用者の健康支援に貢献していること、ケースワーカーであるあなたに出会えたから救われる利用者がいるということをぜひ知っていただきたい思いで執筆をつづけてきました。利用者とつながっている細い糸を紡いで、多様な関係者とより多くの糸を織りなし、利用者にとってのネットワークを形成することで、利用者の健康の支援にぜひこれからも関わってください。
長きにわたってのお付き合い、ありがとうございました!
西岡 大輔 (にしおか だいすけ)