社会的処方の期待と課題:医療経済学の観点を中心に

「医学のあゆみ」掲載記事を紹介します。
西岡大輔.社会的処方の期待と課題:医療経済学の観点を中心に.医学のあゆみ. 2023;285(12):1090-4.

週刊「医学のあゆみ」に「社会的処方の期待と課題:医療経済学の観点を中心に」と題して、記事を書きました。ここでは、医療経済学的な視点に基づいた社会的処方の論点について紹介しました。

”社会的処方”が社会に実装されるためにクリアしなければならない課題として、その効果の検証が挙げられます。しかし、”社会的処方”は、その介入自体が多様であり、本人への影響も多様かつ本人以外への幅広い影響があるため、何をどう評価するが定義しづらく、”社会的処方”はその評価が難しいことが指摘されており、頑健なエビデンスは不十分とされてきました。

”社会的処方”による支援による健康への効果はまだ十分とはいえず、一部の患者群においてその効果が示唆されるという段階です。一方、患者本人のニーズが充足されるケースとうまく充足されないケースがあり、結果的に健康の公平性に寄与できないと論じている研究(Payne K et al, Br J Gen Pract 2019; Gibson K et al, Soc Sci Med 2021)もあり、”社会的処方”の”副作用”の報告もなされています。

さらに、”社会的処方”にかかる費用の分析も重要な課題です。

国内での”社会的処方”の議論において、社会福祉専門職の関わりが期待されていますが、既存の専門職を活用すればその費用も発生します。需要が増えれば人員の増加は求められ、活躍の場が拡がれば社会福祉専門職への待遇の改善も必要になります。地域の社会資源により多くの住民が参加するようになれば、その維持費用も検討する必要があるでしょう。

そしてこれら全体の費用あたりの”社会的処方”の住民の健康やwell-beingへの効果を検討することも必要です。”社会的処方”が費用の拠出元の付け替えになっていないか、投資された費用に対してどのような効果をもつのか、これらの関係性全体を考慮した費用対効果分析を十分に検討する必要があります。

”社会的処方”に関する議論には、医学や経済学以外にもさまざまなステークホルダーとなる学問が存在し、社会福祉学や人類学、法学などの学問領域との議論もきわめて重要です。社会福祉学や人類学の視点を含めた書かれた論文も紹介していますので、関心を持っていただけた方には発展的にお読みいただければ幸いです。

西岡 大輔(にしおか だいすけ)