【寄稿】治療掲載記事「観察研究:予定外受診の背景は?就労と世帯構成の交互作用で関連の異質性をみよう」

研究室のポスト・ドクター川内はるなさんがとてもわかりやすく執筆してくれた雑誌が公開されました。自分のもとで学んでくれている人がめきめき力をつけていく姿がまぶしく、これからの活躍が楽しみです◡̈*✧ 金子先生、貴重な執筆の機会をいただきありがとうございました!

画像左が今回紹介する寄稿が掲載された雑誌です

「時間貧困(time poverty)」という言葉をご存知ですか?時間貧困とは、その人が生活する為に必須の時間の総計が、業務過多や担い手不足により24時間を超えてしまう状況を指す概念です。

医療への障壁は一つではありません。経済的な負担以外の障壁の一つに「時間」があります。特に働き盛りの世代、子育て世代の健康を考えうる上で、時間貧困は重要です。

喘息の管理で最も重要になるのは、発作の予防です。しかし喘息は、患者に症状がない時期に治療や疾病管理を中断しすく、その結果症状が悪化し、結果的に救急外来や予定外受診につながっています。筆者は喘息の発作のために救急外来を連日受診したり、症状が重く入院したりする若い患者さんとたくさん出会いました。その中で、定期的な通院を中断したり、薬がなくなってから来院したりするような行動の背景に、日々の仕事や子育てがあるのではと感じていました。

そこで、生活保護制度を利用する成人を対象に、時間貧困にかかわる仕事や家庭の社会的役割と予定外受診の関連を検討することを目的に、どのような人が予定外受診を経験しやすいのか研究を行いました。

東京と大阪の2つの自治体で生活保護を利用していた20~64歳の成人を対象として、2016年1月~12月までの情報を使用し、観察開始から3か月間に喘息による受診がなく、4か月目以降に喘息による受診が生じた場合に予定外受診と定義し分析しました。

その結果、医療費の自己負担が発生しない生活保護利用者においても、就労していてかつ、家族(とくに子ども)と同居している場合に、予定外受診が発生しやすいことがわかりました。仕事と家庭の2つの役割を持つ人に生じている「時間貧困」の現実を反映したと考えられる結果です。

医療従事者や政策立案者は、経済的な給付だけでは医療を十分に享受できない人々が存在する実態の理解に努め、そのような人々に対する支援戦略を検討することが求められます。

西岡 大輔 (にしおか だいすけ)