*生活保護利用世帯の子どもの健康に関する論文が公開されました(2021年5月3日)*

生活保護利用世帯の子どもの健康に関する論文が、小児科ジャーナルの、BMC  pediatrics誌で公開されました。

生活保護利用者の健康支援を推進する被保護者健康管理支援事業には子どもの支援は含まれていません。しかし、生活保護受給世帯を含む生活困窮世帯の子どもの支援は、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」や「子供の貧困対策に関する大綱」で強調されるなど、社会全体で取り組むべき課題として重要視されています。

そこで、2つの自治体にご提供いただいた生活保護管理システムのデータに医療扶助レセプトデータを結合し、さまざまな傷病に関する子どもの受診状況を社会背景ごとに明らかにしました。

2016 年 1 月時点で生活保護を利用している世帯の15歳以下の子ども(573 人)を 1 年間追跡しました。子ども全体のうち 、146 人(25.5%)が気管支喘息、185 人(32.3%)がアレルギー性鼻炎、108 人(18.8%)がアトピーなどを含む皮膚炎、181 人(31.6%)が虫歯などの歯の病気で受診していました。

分析の結果、ひとり親世帯の子どもではそれ以外の世帯の子どもと比較して、上記の傷病による受診が生じやすいことがわかりました(図)。一方、肺炎や胃腸炎などといった急性疾患や外傷での受診には大きな差がありませんでした。

ここで、利用しているデータの性質上、「受診あり=病気あり」の可能性が高いですが、「受診なし=病気なし」ではありません。これらの結果の背景には、どのような理由が考えられるでしょうか。

  1. ひとり親世帯では子どもの適切なケアができているが、それ以外の世帯ではケアが十分に行き届いていない
    ひとり親世帯では子どもの健康を気にかけて適切な受診行動や予防行動をとっている可能性や子どもの健康状態の変化に気が付きやすく、適切に医療機関に受診できている可能性があります。反対に、ひとり親世帯以外の子どもがに十分な医療のケアが行き届いていないのかもしれません。
  2. 単純に、ひとり親世帯で実際に子どもの健康状態が好ましくない可能性
    ひとり親世帯で抱えやすい困難や生活・環境要因が子どもの健康に影響している可能性があります。

上記の検証のためには、より詳細な生活状況や環境要因を踏まえたデータ分析が必要となり、今後明らかにしていくべき課題と考えられます。生活保護利用世帯の子どもたちの支援のために、医療と福祉の双方の観点から、今後も研究に励んでまいります。みなさまの現場でのお声を今後もお聞かせください。

西岡大輔(にしおか だいすけ)

<書誌情報>
Nishioka D, Saito J, Ueno K, Kondo N. Single-parenthood and health conditions among children receiving public assistance in Japan: a cohort study. BMC Pediatr. 2021 May 3;21(1):214.