第82回日本公衆衛生学会総会がつくばで開催され、5つの演題を発表しました。
・被保護者の頻回受診に関連する地域環境要因:生活保護-JAGES連結データの試み(筆頭演者)
・生活保護受給者への健診受診勧奨:豊中市の「健診受診勧奨強化月間」の取り組みから(共同演者)
・生活保護受給者への架電による健診受診勧奨効果-豊中市の令和4年度の取り組みから-(共同演者)
・2型糖尿病患者における生活保護受給の有無と糖尿病診療のプロセス指標の関連(共同演者)
・生活保護世帯の子どもの小集団(セグメント)の特定と効果的な支援策の検討:混合研究(共同演者)
以下、西岡の筆頭演題の抄録です。市が管理する住民のデータを部署を超えて連結すると見えてくることをお話しました。
【目的】被保護者は若年のうちから慢性疾患を抱えやすいが適切な受療行動は取りにくい。令和3年に被保護者健康管理支援事業が施行され、被保護者の頻回受診等の受療行動支援が求められている。被保護者の頻回受診には独居や不就労などの個人要因が関連しており、社会的孤立が背景にある可能性が指摘されてきた。そのような観点から、被保護者が居住する地域の社会関係の豊かさは頻回受診を低減することが期待されるが、それを検証した資料はない。本研究では、日本老年学的評価研究(JAGES)の調査データに基づく地域ソーシャルキャピタル(SC)指標(市民参加、社会的凝集性、互酬性)と被保護者の頻回受診との関連を検証することを目的とした。
【方法】本研究は回顧的コホート研究で、2019年4月時点の豊中市の成人被保護者を1年間追跡した。福祉事務所の被保護者基本データ(年齢、性別、世帯構成等)・医療扶助レセプトデータと、同年に長寿社会政策課が実施したJAGES調査データを用いた。被保護者のデータにJAGESデータから算出された地域SC指標を日常生活圏域単位で連結した。被保護者の頻回受診(月15回以上の受診)を目的変数、地域SC指標を説明変数とし、マルチレベルロジスティック回帰分析を実施した。
【結果】分析対象は7542人で、頻回受診は140人(1.86%)に観察された。市民参加に関して地域の高齢者の「ボランティア」への参加割合が1%ポイント上昇するごとのオッズ比(OR)は0.88, 95%信頼区間(95%CI) 0.64-1.19、「スポーツの会」では、OR=0.95, 95%CI 0.89-1.01であった。互酬性に関して「話を聞いてもらう人がいる」と回答した高齢者の割合が1%ポイント上昇するごとのOR=0.93, 95%CI 0.78-1.11、「世話をしてあげる人がいる」ではOR=0.92, 95%CI 0.84-1.02であった。社会的凝集性に関して「地域の人は信頼できる」と回答した高齢者の割合が1%ポイント上昇するごとのOR=0.97, 95%CI 0.92-1.02で、「地域の人は他の人の役に立とうとする」ではOR=0.98, 95%CI 0.93-1.04であった。
【結論】地域SC指標のうち市民参加や互酬性が豊かな地域に居住する被保護者ほど、頻回受診が少ない傾向があり、被保護者に限らない地域の社会環境整備が被保護者の頻回受診に保護的にはたらく可能性があった。自治体内の部署を超えた連結データを用いることで行政課題を解決するための糸口とできる可能性があった。
これらの報告を論文にまとめ、公開できるように努めてまいります。査読の結果によっては数字等に若干の修正が加わる可能性がありますので、ご注意ください。
生活保護に関係する業務に従事されている多くの方に出会うこともでき、また新たな出会いもたくさんあり貴重な機会になりました。ご挨拶くださったみなさま、本当にありがとうございました!
西岡 大輔 (にしおか だいすけ)