*学位論文が国際誌に公開されました(2021年11月12日)*

生活保護の利用世帯への給付額が減る(受け取るお金が少なくなる)と、世帯の医療費はどう変わると思いますか?

そんな疑問に答えるような論文がJournal of Epidemiology and Community Health(JECH)誌に掲載・公開されました。JECHは人々の健康とその社会背景との関わりを扱う歴史のある雑誌で、そこに名前が載ったことがとても嬉しいです。

Nishioka D, Takaku R, Kondo N. Medical expenditure after marginal cut of cash benefit among public assistance recipients in Japan: natural experimental evidenceJ Epidemiol Community Health.

国内の5自治体でこどもを養育している生活保護利用世帯を追跡し、経済学で用いられる政策評価の手法を利用して分析しました。こどもを養育する世帯ではこどもが3歳に達すると給付額が月額5,000円、政策上減少します。その変化に注目し、月額の世帯医療費の変化を観察したところ、給付額の減少前後で世帯の医療費は平均24,857円増加することがわかりました。

所得の減少は人々の健康や健康に関わる行動に負の影響を及ぼします。それは最低限度の生活が保障されている生活保護の利用者においても例外ではなく、生活扶助費の減少→健康への悪影響→医療費の増加という経路が想定されます。医療費も同じく公的に支出されているため、生活扶助費の減少は、利用者の健康な生活にとっても、生活保護財政全体にとっても不利な結果になる可能性があります。

本研究で得られた知見に関するより詳細なメカニズムの検証や、日本全国への一般化可能性の検証、長期的な影響の評価が今後必要ですが、本研究は生活保護制度の利用者への給付額減少が短期的には医療費の増加を引き起こす可能性を示しました。給付額を変更する場合には、その影響が誰に、どのように、どの程度生じるのかを十分に検討し、把握する仕組みづくりが重要です。これらの配慮に基づいた政策決定が、利用者の健康な生活を維持し、行政の財政負担を緩和できる可能性があります。

この研究も、医学領域以外の学問分野の研究者の先生方のご指導や、福祉の現場で働く方々からのアドバイス・コメントがなければ完成しませんでした。今後も学問知と経験知を日々教わりながら、社会の疑問に答えられるような研究を進めていきます。引き続きご指導ご支援のほどよろしくお願いします◡̈*✧

西岡大輔(にしおか だいすけ)