西岡大輔.健康格差に対する学会・団体活動―国内外の動向.日本医師会雑誌. 151(10);1793-1796.
「日本医師会雑誌」に掲載されました。
近年、世界中で多くの学術団体や専門職集団が、健康に影響を及ぼす社会的要因(SDH)についての対応の重要性や健康格差の縮小への勧告を出しています。本論文では国内外の医師会を中心にその対策に関する声明を紹介しました(SDHに関する簡単な講義動画は以下をご覧ください)。
SDHに関する医学関係団体の国際的な動向
世界医師会:すべての国民が必要な予防および医療を公平に受けることができるように、不利な立場になる人の権利を守る(アドボケートする)ことを求める声明を出しています。
英国医師会:健康格差の解決のために、特に子ども期からの健康についての介入を提案しています。また政策立案者に対してすべての政策に健康の観点を含めることを求め、さらに健康格差縮小の為の臨床医向けのツールも紹介しています。英国内では、医学に関連する学会も、健康格差の縮小に対してガイドラインを作成する等、強い関心を示しています。
カナダ医師会:医師は患者の社会的な課題に取り組むことに踏み出せるとし、様々な提案をしています。たとえば国や自治体に対して、全ての政策の決定事項に健康影響評価の観点を持つことや、すべての住民の社会バリアを最小化することなどと求めているほか、医学教育の中にSDHと健康格差に関する統合的な情報を導入することなども提案しています。そしてすべての医師がSDHや健康格差に関する研究に参加・協力すること、他職種協働のチーム医療を実践すること、患者の診療や資源を考慮するときに公平性を意識することなどを求めています。
米国:学術団体を中心にこのような動きがみられます。米国内科学会は、健康格差とその対応に関する立場表明を公開し、10の推奨を提案しています。また公共政策に関して、個人の社会経済的特性によって最も健康のリスクが集積する人々への不公平な影響に対処し、全ての人々のために医療の質や医療へのアクセスを改善するように努めなければならないとしています。
日本の動向
日本医師会は、気候変動や経済格差に伴い深刻化する健康格差の拡大に対して解決に協力する必要性を提起しています。また、日本プライマリ・ケア連合学会や日本糖尿病学会など、複数の学術団体で健康格差の認識と対応を求める動きが活発になっています。
日本プライマリ・ケア連合学会による健康格差に対する見解と行動指針
このように、国際的には各国の医師会および医学の学術団体が健康格差への見解を示し、現場で診療する医師の活動を支援するだけでなく、政策立案者など関係者にむけた立場表明を発信しています。
日本でも、健康格差への関心は高まっているため、日本医師会の立場表明や役割、政策立案者などへの提案を国内外に発信していくことが期待されます。
西岡 大輔(にしおか だいすけ)