「公的扶助研究 第268号」掲載、連載:「『健康管理支援事業』を考える」の記事を紹介します。
生活保護の利用者に限った話ではないですが、健診やワクチン等の予防行動も含め、人々が保健医療機関を受診するまでには数々の障壁があることが知られています(Levesque JF, et al. Int J Equity Health. 2013; Nishioka D. BJGP Open. 2022)。
障壁は5つあり、それぞれを具体的に紹介していきます(過去のエントリーでも簡単に紹介したことがあります)。
①情報の障壁
何らかの症状があった時に、その症状が医療にかかるべき症状であることを認知するためには、社会がその人に届くように、必要な健康情報を発信する必要があります。社会による発信が不十分な場合に、その人が医療を利用することのニーズに気づくまでの障壁が高くなります。
②文化・規範の障壁
自分の健康問題をどこに相談すればよいかわからないという障壁です。適切な医療機関を見つけるためには、生活保護法の指定医療機関や利用者のかかりつけ医とのかかわりを病気になる前から作っておくことが重要です。
③地理・時間の障壁
医療機関へ受診する為の移動手段がないかもしれない地理的障壁や、受診できる時間帯に受診すべき医療機関は診察時間を設けていないかもしれない時間的障壁があります。その人の移動手段と、診察に割ける時間を十分に確保することが重要になります。
④費用の障壁
費用には、窓口で実際に支払う医療費(直接費用)、医療機関に受診するまでに必要な交通費など(間接費用)があり、医療扶助はこれらを経済的に保障しています。しかし、勤労収入を得ている人にとっては、医療機関への受診に時間を割くことは、本来得ることができる収入を失うことと同義になります。仕事を休んで収入を諦め、医療機関に受診し健康に投資するという経済学で言う機会費用が高いことが障壁のひとつになります。
⑤医療従事者との関係の障壁
その人が医療機関の診察室に到達できた場合にも、関係性が好ましくなければ健康のニーズは充足されません。その人が医療従事者に内在する無意識の差別により、医療機関で望まない経験をした場合には、その人にとっての次回以降の受診の障壁が更に大きくなってしまいます。
以上を踏まえると、利用者の支援に関わるケースワーカーは、利用者の能力を高めることと、医療機関への受診に係るそれぞれの障壁を小さくすることで、利用者の保健医療へのアクセシビリティを高めることができます。さらに、医療従事者との好ましい関係性を構築するための支援役割も重要となります。
ケースワーカーが、利用者ひとりひとりの健康や医療に関する経験を聴き、そして受診に向けての障壁を除去するための支援が出来れば、そのケースワークは健康支援に大きな貢献を果たすことが期待されます。ぜひ効果的な健康支援が実践できた事例などを教えていただければ幸いです。
最後に、みなさんにお知らせとお願いです。
令和4年度社会福祉推進事業を一般社団法人日本老年医学的評価研究機構の一員として受託し、被保護者健康管理支援事業における利用者のフェイスシートの素案と、被保護者健康管理支援事業の評価指標を提案しました。近日中に紹介記事を掲載しますので、完成したフェイスシートの素案にご意見をいただけるのをお待ちしています。
西岡 大輔(にしおか だいすけ)