このたび、2026年10月に東京・新宿で開催される第85回日本公衆衛生学会総会において、私たちが関わる3つの企画が採択されました。
いずれも10月30日(金)の開催です。
テーマはそれぞれ異なりますが、3つの企画に共通しているのは、これまでの公衆衛生の仕組みだけでは十分に捉えきれない人々の健康を、どのように支えていくのかという問いです。
・データに現れにくい人を、どう捉えるのか?
・保健と福祉の専門職は、どう協働できるのか?
・そして、生活保護を利用する人への健康支援を、地域全体の健康づくりへどうつなげていくのか。
10月30日の一日を通して、こうした問いを皆さんと考えたいと思います。
1.私たちのEBPMは実装可能か ― データに現れない集団の健康を考える
日時:10月30日(金)13:00〜14:15
会場:京王プラザホテル43F ムーンライト(第10会場)
近年、政策形成において「エビデンスに基づく政策立案(Evidence-Based Policy Making:EBPM)」の重要性が強調されています。しかし、その「エビデンス」は、誰についてのデータからつくられているのでしょうか。貧困や孤立など困難な状況にある人は、社会調査に回答すること自体が難しかったり、医療へのアクセスに障壁があったりするため、既存のコホート研究やデータベース研究の中に現れにくいことがあります。つまり、データに基づいて政策をつくろうとすればするほど、そもそもデータに現れない人が政策形成から取り残されるという逆説が生じる可能性があります。さらに生成AIが社会のさまざまな場面で使われる現在、参照できる文献やデータそのものが少ない集団は、知識基盤から機械的に排除される「Algorithmic Exclusion」の問題にもつながります。
本シンポジウムでは、公衆衛生学と社会福祉学、定量研究と定性研究をつなぎながら、社会の中で不可視化されやすい人々について、どのようにエビデンスをつくり、政策や支援につなげていくことができるのかを議論します。「データがない」ことを「問題がない」ことにしないために、どのような知のつくり方が必要なのかを考えます。
2.ソーシャルワークと連携せずに健康づくりができるか? ― 保健と福祉の協働に向けて
日時:10月30日(金)14:30〜15:45
会場:京王プラザホテル43F ムーンライト(第10会場)
健康は、医療や本人の生活習慣だけで決まるものではありません。住まい、所得、仕事、人とのつながり、利用できる制度やサービスなど、さまざまな社会的な健康規定要因(Social Determinants of Health:SDH)の影響を受けています。そのため、人々の健康を支えるためには、疾病の予防や治療だけでなく、社会生活そのものに目を向ける必要があります。そこで重要になるのが、ソーシャルワークとの連携です。
ソーシャルワーカーは、生活上の困難を抱える人の権利を守り、本人の声を代弁し、必要な制度や社会資源につなぐ「アドボカシー」を専門的に実践してきました。本セッションでは、保健医療機関や保健福祉行政の現場で働くソーシャルワーカーが、実際に人々の健康をどのように支えているのかを紹介します。その実践を手がかりに、公衆衛生とソーシャルワークは何を共有し、どのように協働できるのかを参加者の皆さんと考えます。
健康問題の背景に生活問題があり、生活問題の背景に社会の仕組みがある。そう考えると、保健と福祉の連携は「あるとよいもの」ではなく、これからの健康づくりに欠かせないテーマではないでしょうか。
3.自由集会29「生活保護受給者の健康づくりは、地域社会の健康づくり」
そして夜には、生活保護を利用する人の健康支援をテーマとした自由集会を開催します。
日時:10月30日(金)19:20〜20:50(90分)
会場:新宿NSビル 3F 東ブロック(3-A)
生活保護受給者への健康支援というと、生活習慣病の予防や重症化予防など、個人への支援を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際に一人ひとりの生活を見ていくと、その背景には、孤立、住まい、医療へのアクセス、生活困難、地域資源の不足など、さまざまな課題があります。
これらはその人だけの問題ではありません。むしろ、生活保護受給者の健康課題には、その地域が抱えている健康課題が凝縮して表れていると考えることができます。だからこそ、「生活保護受給者の健康づくり」は「地域社会の健康づくり」でもあります。
このテーマにとって大きな追い風となる国の動きもありました。
平成25年に発出された厚生労働省通知「地域における保健師の保健活動について」が令和8年5月に全部改正され、保健所等が行う保健活動として、「生活困窮者・生活保護受給者等に対し、社会経済状況の違いによる健康状態の差が生じないよう健康管理支援を行うこと」が明記されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001707357.pdf
生活保護と保健師活動との接点が、国の通知の中でも明確に位置づけられたことになります。
自由集会では、生活保護受給者の健康支援に関わる保健医療専門職を中心に、データやエビデンスに基づく保健活動、地域診断、実践事例、現場で生じる葛藤や困難、そしてライフコースを見据えた支援について話題提供します。さらに参加者同士の討議を通じて、職種や地域を越えて経験を共有し、今後につながるネットワークをつくる場にしたいと考えています。
「見えない」を見えるようにし、「分断」を越えて、地域の健康へ
今回採択された3つの企画は、偶然並んだものではありません。
最初の企画では、「そもそも私たちは誰をデータで捉えられているのか」を問い直します。
次の企画では、「健康を支えるために、保健と福祉はどう連携するのか」を考えます。
そして自由集会では、「生活保護受給者への健康支援を、地域の中でどう実践していくのか」を具体的に議論します。
エビデンスをつくること。
専門職同士がつながること。
一人ひとりへの支援から地域の課題を捉えること。
これらは別々のテーマではなく、「誰一人取り残さない健康づくり」を実現するためにつながっている課題だと考えています。生活上の困難がある人の健康を支えることは、特定の人だけを対象にした特別な取り組みではありません。その人たちが健康に暮らせる地域をつくることは、結果として、誰にとっても健康に暮らしやすい地域をつくることにつながります。
生活保護受給者の健康づくりは、地域社会の健康づくり。
10月30日、新宿で、さまざまな立場の皆さんと議論できることを楽しみにしています!

