【寄稿紹介】新しい研究内容が掲載された記事を紹介します

西岡大輔.【特集:研究報告会2023(2023.8.19)】被保護者の健康および受療行動に関連する地域の社会環境要因 福祉事務所データなどを用いた実証研究.国民医療.2023.360(秋季号).10-17.の記事を紹介します。

「ソーシャルキャピタル」という言葉をご存知ですか?

私たちが居住する”環境”には、緑が多いか、空気がきれいかといったいわゆる自然環境以外にも社会環境が存在します。たとえば、お互い様の助け合いが多いか、集まる機会が多いか、喫煙者を目にする場所が多いか、などが挙げられます。

ソーシャルキャピタルは社会的共通資本などと訳されることが多く、個人を単位にした資本と、地域を単位とした資本があります。ここでは、地域がもつソーシャルキャピタルについて解説し、紹介します。

地域のソーシャルキャピタルは、地域での人々の連帯や信頼の程度(社会的凝集性)、助け合いの程度(互酬性)、市民の社会参加(参加)の程度の指標で構成されます。これらが豊かな地域はつながりが強く、包摂的なまちであると考えられます。

これまで私たちは、利用者の頻回受診は、独居や就労していないといった、社会とのつながりが少ない人で多く発生していることを明らかにしてきました。そうであれば、よりつながりやすい包摂的な地域に住む人では、頻回受診が少なくなるのでは?という仮説を検証しました。

日常生活圏域ごとに、利用者の頻回受診の発生率と地域のソーシャルキャピタルの得点を算出しました。A地区、B地区、C地区では頻回受診は少なく、D地区・E地区・F地区・G地区では発生率がA地区と比べて2倍以上と多いことがわかりました。

頻回受診の発生率が最も少なかったB地区をみてみると、「話を聞いてもらう人がいる」「話を聞いてあげる人がいる」「世話をしてあげる人がいる」「地域の人は信頼できる」「趣味の会に参加している」と答える高齢者の割合がもっとも多いことがわかりました。一方で、頻回受診の発生率が多いD地区は、「話を聞いてもらう人がいる」「地域の人の役に立とうする」「趣味の会に参加している」と答えた高齢者の割合が一番少なく、同じく頻回受診の発生率が多いG地区は、「話を聞いてあげる人がいる」「地域の人は信頼できる」「ボランティアに参加している」と答えた高齢者の割合が一番少ない地区でした。

観察された関係性を統計的に処理してみると、特に助け合い=互酬性や市民参加が多いまちほど、頻回受診が少ないことがわかりました。

地域住民のつながりが豊かな圏域では、利用者の頻回受診が少ないという仮説が支持されました。近年、高齢者の介護予防や通いの場事業が充実していています。これらの事業によるまちづくりは、事業の対象となる高齢者以外の住民にも影響を及ぼしている可能性があることも示唆されました。

今回の結果は、高齢者、保健、福祉事務所の3つの課にまたがるデータを連結しながら分析を行うことで得られました。自治体内で部署を超えた連結データの作成は難しいですが、それが可能となれば、複合的な行政課題を解決するための糸口にできる可能性も示唆されました。

この研究内容は、日本公衆衛生学会で発表し(→リンク)、計算機統計学会シンポジウムでの講演(→リンク)でも紹介したものです。今後査読を受けて、国際誌に公開されましたら、より詳細に図などを含めて紹介する予定ですのでお楽しみに。

西岡 大輔(にしおか だいすけ)