「とよなか都市創造」掲載記事 「健康データを活かす -部署間連携型共同研究による被保護者健康管理支援データの活用-」

西岡大輔.健康データを活かす ――部署間連携型共同研究による被保護者健康管理支援データの活用――.とよなか都市創造.2024.(2)17-22.

今まで福祉事務所が所有するデータを活用して、社会福祉制度を利用している人々の健康支援に関するさまざまな実証研究を行ってきました。しかし、福祉事務所が所有するデータでは、被保護者の生活習慣や社会環境の実態を考慮することができず、被保護者が健康を獲得するために効果的な支援や政策を提案できない課題がありました。

そのような課題に対して、令和4年度より豊中市と新たな取り組みを始めました。自治体の業務で収集されている住民データを、所管部署を超えて個人・地区単位で連結して分析し、その結果を他部署の担当者と検討するという部署間連結型共同研究です。そのプロセスにより、単一部署での分析では検証が難しい、各部署の事業の他部署への影響を検討できる可能性を示すことが出来ました。

今回は、その一部を紹介しています。

被保護者健康管理支援事業が実施され、被保護者の受療行動支援が進められていますが、その重要な項目の一つに頻回受診があります。頻回受診には、”独居”や”不就労”などの個人要因が関連していることから、筆者は被保護者の社会的孤立が頻回受診の促進因子として存在している可能性を指摘してきました。しかし、被保護者が居住する地域の社会環境が包摂的かどうか、また被保護者自身の孤立・孤独の程度やつながりの豊かさを評価できる指標は、福祉事務所には存在していませんでした。

社会疫学の分野では、地域の社会環境の豊かさを図る指標として、地域のソーシャル・キャピタル(SC)に関する知見が蓄積されており、その代表的なものとして、豊中市が参画している日本老年学的評価研究(JAGES)の地域SC指標があります。

今回、豊中市長寿社会政策課が所管しているJAGESの調査データを活用して、地域SC指標が豊かな地域に住む被保護者の頻回受診が少ないかどうか検証しました。

統計解析の結果、統計的には有意とはいえないものの、互酬性や市民参加の程度が豊かな地域ほど、その地域に居住する被保護者の頻回受診は少なくなる可能性がありました。一般介護予防事業などにおいて通いの場事業などが推進されてきた影響が、被保護者に好ましい影響を与えてきた可能性があります。

本研究では、因果関係を十分に示せておらず更に検証を重ねる必要はあります。しかし単一部署では把握が難しい住民の広く健康に関するデータを、部署を超えて接合し分析した結果を示すことで、行政施策への示唆及び部署間連携の強化につながることが示されました。

さらに、部署間連携型共同研究のアウトプット方法の一つとして、データを地図上に表現し可視化することが考えられます。地図上に表現することで、研究者や行政の担当者だけでなく、行政外の様々な支援者や団体、企業、住民自身がデータを身近に感じ、理解を深めやすくなる利点があります。産官学民のそれぞれがの立場でデータをディスカッションできれば、市民参加型の行政施策の立案への繋がっていくことが期待されます。

市政に関わる可能性のある研究者には、データを活用できるような行政の各部署へのサポートと詳細な分析、そして分析結果の還元を通じた市政への貢献に努めて頂ければ幸いです。

西岡 大輔(にしおか だいすけ)